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1 後遺障害との関係
交通事故事件で,最も多く目にする診断書は,診断名に頚椎捻挫と記載された診断書です。いわゆるむち打ちです。むち打ちがある場合に,認定される可能性のある後遺障害の等級は,14級9号または12級13号です。
では,どのような場合に,むち打ちが14級9号や12級13号に該当とする判断されるかという点ですが,他覚所見(MRI画像など)の有無と神経学的所見が認められるか否かという点にかかっています。
他覚所見がなく,かつ,神経学的所見が認められれば,14級9号が認定されやすく,他方で,他覚所見があり,かつ,神経学的所見が認められれば,12級13号が認定されやすいです。
14級9号と12級13号の区別は,他覚所見の有無で区別されるので,比較的分かりやすいです。問題となるのは,14級9号と後遺障害の等級認定が無い場合(=無等級)の区別です。
2 14級9号と無等級の境目
14級9号と無等級の境目は,神経学的所見が認められるか否かです。14級9号は神経学的所見が認められる場合に,認定されます。では,神経学的所見があるというためには,最低限,腕や手先に痺れの症状が出ていることが必要です。腕や手先に痺れの症状があるからといって直ちに神経学的所見が認められるわけではありませんが,腕や手先に痺れの症状がないのであれば,「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)とは言えませんので,およそ14級9号に該当するとは言えません。
神経学的所見の有無については,以下のようなテストを行うことが通常です。
- 腱反射テスト(亢進++ 正常+ 低下± 消失-)
- 筋力テスト(ゼロ 不可 可 良 優 正常)
- 筋萎縮 有の場合は,左右の上腕,前腕,小手筋,大腿,下腿の周径の測定
- 知覚障害 異常の場合は,部位を特定の上,鈍麻,過敏などを記載
- Jackson test
- Spurling test
- 10秒テスト
以上の7つのテストを実施した上で,陽性となれば,神経学的所見が認められやすいということになります。
3 後遺障害診断書の作成
後遺障害診断書の作成にあたって,本来であれば,上記7つのテストを行うべきであるのですが,後遺障害診断書の内容を見ても,全く何のテストもしていないものがあります。もしも,診断名が頚椎捻挫で,腕や手先に痺れの症状があり,後遺障害診断書を作成したにもかかわらず,何らのテストも実施されていないという被害者の方がいらっしゃれば,上記7つのテストを行うように担当医にお願いしてみて下さい。
4 その他の判断要素
その他,14級9号の認定に傾きやすい事情としては,物損部分の損害が高額になっていること,通院頻度が高いこと,通院期間が長いこと,治療の内容として神経ブロック注射やトリガーポイント注射などをしていることです。
これらの事情と後遺障害診断書上の神経学的所見についてのテストを総合的に考慮して,14級9号の認定がなされているように感じています。