様々な慰謝料の基準(高い基準と安い基準)

慰謝料の基準の種類

交通事故の業界には,慰謝料の計算方法の基準が大別して,自賠責の基準と赤い本での基準(いわゆる裁判基準)の2種類があります。他にも,任意保険会社の基準なるものもあるという考えもありますが,各任意保険会社により,その内容が異なり,かつ,公開はされていません。やはり基準というからには,公にされ,かつ,計算することができることが前提であると考えられますので,被害者側から見れば,任意保険会社の基準は,基準とは言い難いものと考えています。そこで,ここでは,自賠責の基準と赤い本での基準(いわゆる裁判基準)に大別して説明します。なお,一般的には,自賠責の基準より赤い本での基準(いわゆる裁判基準)の方が高額です。

 

自賠責の基準

1 基準の変更

自賠責の基準は,令和2年4月1日より変更されています。同日より前の交通事故の場合は1日につき4200円の慰謝料であり,同日以降の交通事故の場合は1日につき4300円の慰謝料となります。

 

2 計算方法

次に,実際に通院した日数(実通院日数)と通院期間の関係です。実通院日数の2倍より通院期間が長い場合(①実通院日数×2<通院期間)と短い場合(②実通院日数×2>通院期間)で計算が異なります。

①の場合を例に出して説明します。実通院日数が30日,通院期間が90日だとします。この場合は,次のような計算をします。

30日(実通院日数)×2×4300円=25万8000円

②の場合を例に出して説明します。実通院日数が30日,通院期間が50日だとします。この場合は,次のような計算をします。

30日(実通院日数)×50日×4300円=21万5000円

 

3 重過失減額

自賠責基準には,重過失減額なるものが存在します。

 

減額適用上の

被害者の過失割合

減 額 割 合

後遺障害又は死亡に係るもの

傷害に係るもの

7割未満

減額なし

減額なし

7割以上8割未満

2割減額

 

2割減額

8割以上9割未満

3割減額

9割以上10割未満

5割減額

一般的に,自賠責基準と裁判基準とでは,裁判基準の方が高額であるのは,間違いないのですが,場合によっては,自賠責の基準の方が有利になることもあります。

例えば,以下のような交通事故が発生したとします。なお,損害全体額は,120万円以下の場合です。

  • 他覚所見なし
  • 実通院日数30日
  • 通院期間90日
  • 過失割合6割

この場合,裁判基準で言えば,53万円×4割(過失相殺)=21万2000円の慰謝料を請求することになります。

他方で,自賠責の基準で言えば,30日(実通院日数)×2×4300円=25万8000円の慰謝料を請求することになります。過失割合が7割未満なので,「減額なし」になるため,過失相殺をしていません。

このように,過失割合によっては,自賠責の基準の方が有利になることがあるので,注意しましょう。

 

裁判基準

1 入通院慰謝料

ここでは,赤い本記載の入通院慰謝料の金額のことを裁判基準といっています。慰謝料と言っても,その種類は,入通院慰謝料,後遺障害慰謝料,死亡慰謝料,近親者慰謝料などがあります。ここでは,入通院慰謝料についての説明になります。

 

2 赤本別表Ⅰ(単位:万円)

以下の表は,一般的には骨折を伴う傷害が生じた場合の入通院慰謝料です。

表の見方の例をあげておきます。

  1. 入院のみ3カ月=145万円
  2. 通院のみ3カ月=73万円
  3. 入院3カ月,通院3カ月=188万円

入通院慰謝料

 

3 赤本別表Ⅱ(単位:万円)

以下の表は,むち打ち症で他覚所見がない場合や軽い打撲・軽い挫創(傷)が生じた場合の入通院慰謝料です。

表の見方の例をあげておきます。

  1. 入院のみ3カ月=92万円
  2. 通院のみ3カ月=53万円
  3. 入院3カ月,通院3カ月=128万円

赤本別表Ⅱ

 

4 後遺障害の認定との関係

治療が長期間継続して行われている場合,例えば,骨折を伴う傷害を負い入院6カ月した後,通院が6カ月続いている場合を想定しましょう。

このような場合,入通院慰謝料の別表Ⅰの入院6月,通院6月ですから,入通院慰謝料は,262万円となります。では,そこからさらに1カ月通院を継続すると,286万円となります。被害者の方が通院の必要性があると感じて,このまま通院を継続しても,入通院慰謝料の上り幅は,ひと月に4万円,2万円と減少していくこととなります。

したがって,金銭的な側面から見た場合,このまま通院をしても,あまり意味がありません。ある程度の収入がある方で,かつ,後遺障害の認定が下されることが予想できるのであれば,早期に後遺障害の認定を受けて,後遺障害逸失利益を得た方がよい場合もあります。

というのも,後遺障害診断書を作成してもらうと,その後は,治療費を出ませんが,後遺障害の認定を受ければ後遺障害逸失利益が出ます。後遺障害逸失利益は,原則として症状固定時から67歳までの期間を計算の基礎としますので,早めに治療をやめて,症状固定時から67歳までの期間を増やした方が,被害者にとって計算上有利な場合があります。

したがって,場合によりますが,治療が長期間継続している場合には,必要以上に治療に拘らず,ある程度の期間で治療を打ち切り,後遺障害逸失利益を受け取った方が,被害者の方に有利になることがありますのでご注意下さい。

 

弁護士に依頼した場合

弁護士に依頼した場合,特殊な場合を除き,自賠責の基準で合意するということはなく,いわゆる裁判基準に近い金額で合意しますので,多くの場合で,増額を見込めます。そして,弁護士特約に加入されている方であれば,およそ損をする確率が非常に低くなるので,弁護士に依頼した方がよいと思われます。

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